Asma NOTE

Years of rambling from a midlife otaku.

世田谷イチ古い洋館、ふたたび

前回からひと月も経っていないのに、体感ではもう半年近く過ぎたような気がする。『ガラスの仮面』50周年記念展の後期が終わる前にと、あの水色の洋館へふたたび足を運んだ。

先日書いた旧尾崎テオドラ邸の記事は、歴史的な背景や、マンガ家の山下和美先生がこの建物を守るために歩んだ道のりの紹介が中心で、肝心の館内の様子にはほとんど触れていなかった。せっかく世田谷で最も古い洋館をもう一度訪ねたので、『ガラスの仮面』50周年記念展を二度目に観た体験もあわせて記録しておきたい。

今回も前回と同じく、朝10時開館の回を選んだ。違うのは、ちょっと奮発して館内の喫茶室で「アフタヌーンティーセット」を予約したことだ(時間は午前だが)。ほっぺたが落ちるような究極のグルメを期待していたわけではない。ただ、普段はこういうキラキラした「映え」系のスイーツを食べる機会がないので、三段のティースタンドが運ばれてきたときは、夫婦そろって大いに盛り上がった。

セットのドリンクは紅茶、コーヒー、ジュースから選べて、11時までならおかわり自由。私たちは紅茶のダージリン、アールグレイ、アッサム、それに「幻の品種」をうたう和紅茶「いずみ」まで一通り試したが、やはりアールグレイがいちばんしっくりくると感じた。お菓子のほうも、正直なところ期待を裏切られることはなかった。サンドイッチとスコーンはまずまずの出来で、レモンジャムをはさんだ紅茶のケーキは、単体だと少しぱさつくものの、紅茶と合わせると一気においしさが跳ね上がる。いちばん驚いたのは、最上段にのっていた「Glass Mask ~二色の葡萄パフェ~」のミニサイズ。巨峰とマスカットのみずみずしい甘みに、赤すぐりの酸味が絶妙に合う。白桃のアイスとヨーグルトクリームも、「濃厚」と「爽やか」というまるで違う二つの口当たりを、口の中で見事に溶け合わせてくれた。そして最下段のナタデココ入りレモンゼリーは、あの小さなパフェを締めくくるのにぴったりの一品だったと思う……

異なる個性を持ちながらお互いを高め合うマヤと亜弓をイメージし、
深い紫に色づく葡萄で試練を乗り越えて育まれた強さと情熱を、
透きとおるマスカットで一途に夢を追い続ける
純粋さと気高さを表現しました。
アクセントとなるほのかな酸味やいくつもの食感の重なりは、
登場人物たちの葛藤や成長をイメージしています。
『ガラスの仮面』が50年の歳月をかけて描いてきた、
夢を追い続ける人々への賛歌を、一杯のパフェに込めています。

月初のあの時はお腹に余裕がなくて、展覧会とのコラボ限定メニュー(おそらく展示期間ごとにテーマに合わせた限定スイーツがあるのだろう)を頼めなかったが、今回このアフタヌーンティーのセットでその心残りをしっかり埋めることができた。

前回はカウンター横の席だったが、今日は運よくメインダイニングで、光が燦々と差し込む最高のロケーションを堪能することができた。館内は土足厳禁のため、足の裏を通して百年もの歴史を刻んだ古い床の温もりを直に感じられるのも嬉しい。90分間のティータイムを余すことなく満喫したあと、喫茶室と階段をつなぐ廊下の脇で、三浦友和さんと小泉今日子さんのサイン色紙を目にした。どうやら『続・続・最後から二番目の恋』のロケで使われたらしい……この二枚の色紙を見て、『続・続』を早く観終えなければと思った。廊下の突き当たりが洋館の正面玄関だが、この建物が一般公開されてからは、出入りは路地に面した脇の扉だけになり、もとの正面玄関は使われなくなった。

展示エリアは二階のギャラリーにある。二階へ上がる階段の手すりの親柱には、栗のような形(?)の飾りが付いていて、重厚で年季の入った極上の木材でできている。黒光りするそのなめらかな手触りは、思わず手を添えて何度も撫でてしまいたくなる。当日は曇り空だったが、それでも踊り場にある二つの大きな窓から十分な光が差し込んでいた。二階にいる唯一のスタッフは階段を上がりきったところに座っており、来館者が階段を上がってくる姿が見えると、すぐに立ち上がって迎えてくれる。私を含め、ほとんどの客が階段の途中であちこちにスマホを向けて撮影を始めるため、二階に辿り着くまで数分はかかる。スタッフもそれにすっかり慣れているようで、終始ニコニコと穏やかに待ち続け、目の前まで行って初めてすっと歩み寄って展示の注意事項を説明してくれる。

ギャラリー入口の小さなテーブルには、萩尾望都先生から贈られた花が飾られていた。萩尾先生の不朽の名作『ポーの一族』が連載を終えたのは1976年。そして美内すずえ先生の『ガラスの仮面』が連載を開始したのも、ちょうど同じ年の一月だった。日本の少女マンガ史を塗り替えた二つの名前が同じ空間に並んでいるのを見ると、否応なく時代の重みのようなものを感じてしまう。

今回観たのは、前回の続きにあたる後期展だ。第9章「100万の虹」で、マヤが劇団一角獣の野外劇場による『真夏の夜の夢』に出演したところで前期が終わり、後期は第10章「冬の星座」、マヤと亜弓が『二人の王女』で同じ舞台に立つ場面から始まる。限られたスペースの都合で展示できる原稿の点数は決して多くはないが、企画側の原稿の選び方が見事だった。象徴的なエピソードを選んでいるだけでなく、その中でもいちばん心を揺さぶる名シーンを厳選している。原作を最後に読み返したのはもう十数年前のはずだが、わずか二部屋の展示空間を巡るだけで、血が沸き立ち、目頭が熱くなってしまった。

マヤと亜弓が原稿の上でぶつけ合う火花はもちろんだが、月影先生が紅天女の被衣をまとい、天地万物と一体になっていく場面を目の前にしたときの、胸にしみわたるような感動も格別だった。二人の天才少女が、ジャンプ系の少年マンガの主人公さながらに拳で語り合い、血だらけになるまで殴り合ったあと、天を仰いで笑う名場面もある。熱血が過ぎて思わずクスッとしてしまうベタな面白さもありつつ、自分でも驚いたことに、そのコテコテな展開に「本気で」心を打たれてしまっていた。

展示原稿は第14章「めぐりあう魂」で締めくくられていた。……日の出を迎える豪華客船アストリア号のデッキで、感情を抑えきれなくなった速水真澄が、とうとう北島マヤを強く抱きしめる。そして鷹宮紫織もまた婚約破棄を突きつけられ、心身ともに崩壊していく……。長年、仕事の鬼、冷血漢を演じてきた速水が、右腕である聖に本心を引き出される。

速水:すまない…「紫のバラのひと」だと名乗るなんて……頼む、それだけはやめてくれ…!でないとおれは…おれはおまえを殺すかもしれない……!

聖:やっと本音を吐きましたね、真澄さま。全く世話のやける方だ。僕もあなたに殺されるのはごめんです、そんなことはしませんよ。あなたは昔まだ少女だったあの子に惹かれ、その才能のファンになり、陰でずっとあの子を支えてきた。誰よりも深い愛を秘めたまま……正直に自分が紫のバラのひとだと、あの子に名乗ってください。

地位も、肩書も、財産も、すべてを捨て去る決意を固めた速水真澄は、義父・速水英介の屋敷をひそかに後にする。そして聖はマヤのもとを訪ね、「紫のバラのひとが伊豆であなたに会いたがっている」と告げる――

マヤ(心の声):伊豆……!速水さんの別荘のある場所!紫のバラのひと…速水さん……あなたに会える…!やっと…紫のバラのひととして……!

14年前に刊行された「最新」単行本、その最後のページの原稿で、展覧会は幕を閉じる。小さな会場には小さな会場なりのよさがある。この未完の結末にまたしても胸を熱くした私は、すぐさま入口まで駆け戻り、全部の原稿を最初からもう一度見て回った。気の毒だったのは、何の罪もない妻だ。私よりずっと早く見終えていたのに、二周目に引きずり回されたうえ、後半のストーリーを、絵に合わせて中国語で熱演されるのにまで付き合わされる羽目になった。

すっかり疲れ果てた私は、満足しきった足取りで一階へ戻り、玄関脇に設けられたショップへと足を向けた。「50周年記念展」限定グッズのほか、この二年間に買い逃した過去の展覧会のグッズや図録、洋館オリジナルの小物も一部並んでいる。買うべきグッズは、前回の時点で(我を忘れたように)あらかた買い揃えていたので、今回は原作に登場した舞台ポスター風のポストカードセットと、前回サイズ切れで買えなかったTシャツを買い足しただけだ。レジのスタッフも私のことを覚えていてくれたようで、バーコードを読み取りながら「今回サイズがあってよかったですね」と笑顔で声をかけてくれた。

小さなショップなので棚の商品は多くないが、(マンガ好きにとっては)とても見て回りがいのある空間だ。本棚には、先ほど触れた過去の展示会の図録のほか、山下和美先生、笹生那実先生、三田紀房先生など、旧邸の保存運動に携わったマンガ家の方々の作品も並んでいる。運が良ければ直筆サイン本を手に入れることもできるが、同一作品につき一人一冊までの購入制限が設けられている。本棚の脇には、修繕費を募るために行われたチャリティー企画で、多くのマンガ家が寄せた作品の複製原画がずらりと並んでいる。ふと上を見上げると、壁には大きなサイン用の台紙が何枚も貼ってあり、「高橋留美子」「ちばてつや」「永井豪」「安彦良和」(もちろん、旧尾崎邸保存プロジェクトの中心メンバーである山下和美、笹生那実、新田たつお……の名前もある)など、伝説級の巨匠たちの名前がびっしりと書かれて(描かれて)いる。

会計を済ませると、動線に沿ってショップの隣、庭に面した天井高3.5メートルの小部屋へと導かれる。たとえ尾崎行雄や尾崎テオドラといった前世紀初頭の人物を知らず、この洋館の歴史的背景や数年前の保存運動について何も知らなかったとしても、この空間にはパネルや映像による分かりやすい解説が用意されている。ガラスケースに収められているのは、山下家に伝わるティーセットだ。空間の雰囲気によく合うということで、ここに飾って来館者と共有してくれているのだという。出口に向かう前には、洋館が用意したフォトスポットに腰掛けて、明治の空気をまとった記念写真を一枚残すのもいいだろう。

屋敷を出るころには雨は上がっていた。時計を見ると、気づけば三時間半近くも中にいたことになる。家から電車で一時間近くかかる世田谷の古い洋館は、思い立ったときに気軽に足を運べる距離とは言いがたい。それでも、興味のある作家の展覧会が開催される折に、数ヶ月に一度こうして優雅な数時間を過ごしに来るというのは、なかなかいい気分転換になるかもしれない。そんなことを思いながら、旧尾崎テオドラ邸のFacebookページの「フォロー」ボタンを押した。

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