Asma NOTE

Years of rambling from a midlife otaku.

『逃げ恥』から見る日本の「国民総ダンス」ブーム

2016 年 10 月、日本の TBS 秋ドラマ枠で放送された新垣結衣と星野源主演のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』は、国民的なダンスブームを巻き起こした。TBS 公式チャンネルが第 1 話放送後に公開した、星野源が歌うエンディング曲「恋」(次回予告付き)は、わずか 1 週間足らずで 600 万回以上の再生を記録。ネット上では「ガッキ―史上最かわいい」と評され、数えきれない男性ファンが萌えキュン死しただけでなく、女性視聴者からも大きな好評を得た。

『恋』の振付を手掛けた MIKIKO は、「Perfume」や「BABYMETAL」で音楽シーンにおいて高い評価を確立しただけでなく、リオオリンピック閉会式での日本パフォーマンスで世界を驚かせ、国際的にも注目を集めた。現在、MIKIKO は新垣結衣を通して、新たな代表作を生み出している。

10月はちょうど日本の学園祭シーズン真っ盛りで、グループでステージに上がり「恋ダンス」を踊るのが各校共通の人気イベントとなった。ダンス教室でも、生徒からの要望に応じて「恋ダンス」特別クラスが設けられた。音楽業界の専門家が「恋ダンスブーム」を分析した際には、「少し難しそうに見えるが、何度か練習すれば誰でも踊れる」との親しみやすさが、このダンスの重要なポイントだと指摘している。もし最初から高度すぎる振り付けだと、観客が真似したくなったときのハードルが高くなってしまうのだ。新垣結衣本人もインタビューで「プロっぽく踊りたい気持ちはあるが、自分の能力ではこのレベルまでしかできない…」と語っているが、この“力加減のちょうどよさ”こそ、大衆の「みんなで楽しもう」という気持ちを引き出すために必要な燃料となっている。

現在、YouTube で「恋ダンス・踊ってみた」と検索すると、約 7 万件がヒットする。性別や年齢を問わず、一人で踊る動画から数十人でグループで踊るものまで、単純に楽しむ素人から、ファン獲得を狙う YouTuber までさまざまだ。「恋ダンス」の踊り方を教えるレクチャー動画も 180 万回以上再生されており、「恋ダンス」は日本社会に現象を巻き起こしただけでなく、自己表現の絶好の素材にもなった。TBS もこのブームに乗り、毎週 YouTube の公式チャンネルを更新。視聴者はいつでもフルバージョンのエンディングを視聴でき、次回予告の毎週更新によって、元々ドラマを追っていなかった潜在的視聴者も取り込める。視聴率は毎週安定して上昇し、このシーズンのトップに座る勢いだった。

《逃げ恥》は「エンディングダンス」を用いた演出の連続ドラマとしては初ではない。今年の夏ドラマ、剛力彩芽主演の『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』でも、彩芽ちゃんをはじめ小日向文世や瀧藤賢一ら主要キャストがエンディングで華麗に踊った。

また、昨年 2015 年の朝日テレビのダークホース作『民王』では、遠藤憲一おじさんや菅田将暉くんら主演陣が、主題歌を歌う MIWA と一緒に赤いハンカチを振りながら跳びまくる演出も観客から大好評だった。さらに同年 1 月のフジテレビ『問題のあるレストラン』では、真木陽子、二階堂ふみ、高畑充希ら一線女優たちがキッチンで、エンディング曲に合わせて調理器具を使った「カップダンス」を披露。

2013 年『都市伝説の女』では、長澤まさみ、溝端淳平、竹中直人と Perfume 本人が『Sweet Refrain』に合わせて踊り、同年『最高の離婚』では、瑛太、綾野剛、真木陽子、尾野真千子の 2 組のカップルが桑田佳祐の『Yin Yang』に合わせてセクシーなダンスを披露した。

遡れば、2005 年『女王の教室』の片尾曲『EXIT』(EXILE)まで辿ることができる。劇中で鬼気迫る教師の顔を見せた天海祐希姉さんが、T シャツと長ズボンに着替え、校庭で 300 万ワット級の笑顔を振りまきながら踊る姿──1 話あたり 1 分強のその演出は、日本のドラマのエンディング史における伝説のひとつといえるだろう。

話題を呼んだドラマのエンディングダンスは少なくないが、それだけで「国民的ブーム」の規模にまで発展した作品は数えるほどしかない。前回の「国民的ダンス」と呼べるのは、ドラマのオープニングやエンディング曲ではなく、2013年夏、AKB48総選挙で最多得票を獲得した指原莉乃が初めてセンターを務めた『恋するフォーチュンクッキー』だった。

この楽曲は企画段階から「国民的」というコンセプトを明確に打ち出していた。女性アイドルグループらしい華やかな曲調ではなく、テンポはややゆったりめで、覚えやすい簡単な振付に加え、MV には 3,800 人もの一般人が一緒に踊る様子が収められている。この曲は AKB48 のミリオンセラーシングルの一つとなっただけでなく、巻き起こった「国民的ダンスブーム」は海外にも飛び火した。シンガポール、タイ、ベトナムなど東南アジア各国はもちろん、台湾でも無数のバージョンが生まれ、アジア圏外でも欧米に多数の自撮り動画がアップロードされた。このマーケティング手法が成立したのは、SNS での共有文化が成熟し、動画アップロードによる回線負荷が問題にならなくなった現代だからこそである。ここで欠かせないのが、このエコシステムの種をまいた「踊ってみた」という文化だ。

「踊ってみた」はもともと動画共有サイト「ニコニコ動画」(略して「ニコ動」)上のタグのひとつだった(現在ではこの言い方はもはやニコ動に限られない)。このタグの意味を説明する前に、少し話を逸らして2006年のアニメ作品『涼宮ハルヒの憂鬱』について触れておきたい。アニメ制作会社「京都アニメーション」(略して京アニ)は、『涼宮ハルヒ』のエンディング曲《ハレ晴レユカイ》で、空前の作画クオリティと極めてプロフェッショナルな振付を披露し、アニメ業界に大きな衝撃を与えた。

※YouTube「ハレ晴レユカイ 踊ってみた」的検索結果。

各地で振付を練習したオタク仲間のグループが、次々と YouTube に姿を現した。アニメイベントで披露する者もいれば、街角で突然踊り出す者もいた(ネット上には秋葉原で踊っている途中に警察に注意される動画まで残っている……)。「仲間と一緒に練習して踊って(それを公開する)のが超楽しい!」という感覚は、ほぼこの頃に形作られたと言えるだろう。そして「京アニ」は、『涼宮』の次の作品『らき☆すた』でも、オープニング曲《もってけ!セーラーふく》に大量のダンス要素を取り入れた。

もちろん、『涼宮』のファンのようにアニメの振付を真似して動画を公開するグループも少なくない。「京アニ」作品以外でも、オープニングやエンディングにダンス要素を取り入れるアニメ作品は次第に増えていった。

話は再び「nico 動」に戻る。このサービスは 2006 年末に設立され、2007 年に本格運営を開始した。YouTube の「単に公開するだけ」とは異なり、動画上でコメントを流せる機能によってネット住民の心を完全に掴んだ。『涼宮』のダンス動画も自然と nico 動で広まっていった。

さらに 2007 年にはもう一つの怪物が誕生し、nico 動の普及を極限まで押し上げた。現代のバーチャルアイドルの頂点とも言える「初音ミク」がこの年に登場したのだ。YAMAHA の音声合成エンジン「VOCALOID2」に対応した女性バーチャル歌手・初音ミクは、楽曲制作のハードルを大幅に下げ、無数の「P(プロデューサー)」たちに次々と創作意欲を湧き立たせ、nico 動を通じてオリジナル作品を発表させた。翌 2008 年にはタグ機能が導入され、ユーザーが作品を検索しやすくなると同時に、投稿者の作品も見つかりやすくなった。

「踊ってみた」タグが付けられた動画には、既存の楽曲に合わせて踊るものだけでなく、多くが「VOCALOID」楽曲に合わせたダンス動画だ。さらに、画面上で踊るのは必ずしも実写ではなく、初音ミクの3D CGモデルを用いたアニメーション動画も増えてきた。「歌ってみた」と「踊ってみた」は、単なるブームというより、新しい創作・表現のスタイルを確立したと言える。オリジナルの能力を持つ人は作品を披露し、ただ一緒に楽しみたい人は作品を共有する。現実でもバーチャルでも、オリジナルでも二次創作でも、歌やダンスを通じて「自分を表現する」というスタイルがnico 動を拠点に確立され、YouTubeを含む他の動画プラットフォームへも広がった。2011年にはGoogle Chromeが初音ミクをテーマにした60秒のCMを制作し、この新しい文化的潮流に敬意を表した。

Tell Your World PV

2012年、日本の中学校ではヒップホップダンスが必修科目に組み込まれ、「ダンス」は名実ともに国民的な運動となった。同年8月には、nico 動主催のイベント「niconico Dance Master 4」がオンラインで生中継され、15万人以上の同時視聴者を集めた。「自分で歌う」「自分で踊る」というコンセプトは、この10年間でネット文化と共に育ち、一般ユーザーにも浸透していった。オリジナル作品も、既存作品を二次・三次創作するものも、この「自己表現」の手段は徐々に偏った趣味ではなくなり、アニメファン以外の層も、自分の歌やダンスを共有したり、仲間と一緒に楽しむ魅力を実感するようになった。

先に触れたAKBの名曲『恋するフォーチュンクッキー』は、この成熟しつつある土壌の上で最初に大きな花を咲かせた作品である。そして、現在大ブームとなっている「恋ダンス」の成功は、MIKIKOの卓越した振付、星野源の的確で耳に残る楽曲、新垣結衣のまさに可愛すぎる演技といった要素に加え、こうした長年にわたる背景の積み重ねも欠かせない条件だったと言えるだろう。

先日、テレビで TBS の街頭インタビューに応じていた男女を見かけた。皆、笑顔が弾けている……。

「わあ!これ流行ってるよね!私も絶対に踊れるようになりたい~」

「ガッキ―、超かわいい!」

「みんなで覚えて一緒に踊ったら絶対楽しい~」

こうした単純な「みんなで楽しむ」喜びを、一瞬で世界中にシェアできる──ネットって、本当にすごいものだなと改めて感じさせられる。

端傳媒(2016/11/21)に掲載

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