岡本昭彦社長による災害級の記者会見の後、加藤浩次(『極楽とんぼ』)も、自身が毎朝 MC を務める帯番組で会社上層部を痛烈に批判し、体制改革を要求した。具体的な改善が示されなければ退社も辞さないとまで発言し、この動きはメディアから「加藤浩次の乱」と呼ばれることになる。
その後、加藤と経営陣との協議を経て、吉本興業は従来の「専属マネジメント契約」とは異なる「エージェント契約」の導入を決定した。
これにより、芸人は従来のように事務所の包括的な管理下に置かれる形ではなく、業務交渉のみを会社に委ねる選択肢を持つことが可能となった。報酬の分配比率についても、より高い自主性が認められる仕組みとされた。これは加藤が公に体制改革を求めた後、会社が対外的に示した改革姿勢の象徴的な措置の一つである。加藤自身も、吉本興業とエージェント契約を結んだ最初のケースとなった。
もっとも、この制度の適用範囲は限定的であり、すでに高い知名度を持つ一部の芸人を除けば、吉本興業所属の大半は従来型の契約を維持している。しかし「エージェント契約」というモデル自体は、この一件を契機に芸能界全体へと徐々に広がっていった。俳優やモデルの中にも、自身の YouTube チャンネル運営や個人ブランドの展開など、芸能活動以外の分野を強化する目的で、所属事務所とエージェント契約へ切り替える動きが見られるようになる。
さらに、2023 年に性加害問題を受けて体制転換を余儀なくされたジャニーズ事務所も、マネジメント事業を新設の STARTO ENTERTAINMENT へ移管すると同時に、この制度を導入した。上は木村拓哉、堂本光一、櫻井翔といったトップクラスのタレントから、山田涼介、河合郁人、そして King & Prince のような平成以降に台頭した世代に至るまで、会社と結んでいるのは「エージェント契約」である。
2019 年から数えて、すでに 7 年目に入っている。「闇営業」事件がもたらした衝撃は、いまなお芸能界全体に影を落としていると言っていい。では、あの渦中にいた当事者たちはその後どうなったのか。
岡本昭彦はそのまま吉本興業社長に留任した。ただし責任を取る形で、2019 年 7 月から当時の会長である大崎洋とともに、1 年間 50%の減俸とする自主処分を発表している。
一方、当時謹慎処分を受けていた十数名の芸人は、2019 年 8 月上旬に活動再開が認められた。しかし、その中に宮迫博之と田村亮の名は含まれていなかった。
2020 年 1 月になってようやく、田村亮は相方の田村淳が設立した「株式会社ロンドンブーツ」を通じて、「会社」名義で吉本興業とエージェント契約を再締結することができた。そこから一歩ずつ、テレビの世界へと這い上がっていくことになる。
だが、宮迫博之が吉本興業と和解することは最後までなかった。彼はそのまま、テレビ産業から完全に姿を消された。
最初に触れた『アメトーーク!』を覚えているだろうか。2019 年 6 月の騒動以降、番組は『雨上がり決死隊』のもう一人、蛍原徹が単独で MC を務める体制となった。過去映像を振り返る場合でさえ、宮迫が映るカットは徹底的に編集で外される。長年番組を見続けてきた視聴者としては、どこかで期待していた部分もあった。たとえ吉本と和解できなくても、田村亮のように回り道をしながらでも、いつか宮迫が再び『アメトーーク!』のスタジオに戻ってくるのではないか、と。
沈黙から 5 か月後の 2019 年 11 月、宮迫は自身の YouTube チャンネルを開設し、2020 年 1 月末には YouTuber として活動を開始することを発表した。
宮迫は番組に戻ることに諦めたわけではなかった。しかし、半年近くの停滞により、テレビ業界以外の可能性を模索せざるを得なくなった。長年ともに戦ってきた相方としての心境は、さぞ複雑だった。蛍原徹も前世代の保守的な考えを持つ芸人であり、宮迫が家でおとなしく耐えることを望んでいた。ところが、本来おとなしく謹慎すべき立場の人物が、堂々と YouTube で新たな事業を始めたことで、蛍原にとっては明らかに「相方はすでに自分で退路を確保した。お前らが彼をテレビに復帰させなくても、あいつは餓え死にしない」と宣言したようなものだった。
蛍原一人で支える『アメトーーク!』は、そのまま一年、二年と続いていった。その間、宮迫が復帰する兆しはまったく見えなかった。一方、宮迫の YouTube チャンネルも順調に成長し、2020 年 7 月には登録者数が 100 万人を突破する。『闇営業』事件からちょうど 2 年後、二つの平行線が永遠に交わらないことを知ることになる。
2021 年 8 月 17 日、宮迫は久しぶりに見慣れたスタジオに戻った。しかしそこで彼を待っていたのは、『アメトーーク!特別編 雨上がり決死隊解散報告会』だった。全国の視聴者に向けて、長年ともに歩んできた相方との別れと、マイホームのように慣れ親しんだ番組への最後の挨拶を告げる ―― 配信は、AmebaTV と吉本興業の公式 YouTube チャンネルで行われた。
そう、宮迫は最後の最後まで、テレビ業界に受け入れられることはなかった。
『アメトーーク!』は今も、レコーダーで自動録画される番組だ。違うのは、もう最新回を急いで消化することはなくなった。ハードディスクには毎週放送分がどんどんたまっていき、もはや一回一回を見なければならないという執着も薄れた。気づけば、1 年で録画した四五十回のうち、実際に見たのは企画タイトルに興味を惹かれた三、五回ほどだった。
『アメトーーク!』は今でも朝日テレビの看板級バラエティ番組だ。しかし「高視聴率」の基準は、かつての 12%前後から 5%~8%に下がっている。明らかに視聴者の関心はストリーミングや YouTube に移っていて、テレビメディアの衰退という時代の流れは、もはや止められない。
たしか今年の 1 月中旬から下旬だったと思う。ふと去年の年末に録画した 5 時間の特別番組をまだ見ていないことを思い出した。なんといっても「家電芸人」は、家電界最新技術のトレンドを楽しく吸収できる、毎年欠かせない重要な企画だ。妻と笑いながら一緒に見終えたあと、番組リストの情報欄をふと確認してみると、さっき見たのはなんと 2024 年末の録画…… つまり、自分では「毎年の恒例行事」と思っていた儀式は、実は少なくとも 2 年近くも実行されていなかったのだ。
かつて長年にわたって精神的に支え、自分の糧とも言える録画リストが、1 年分まとめて積み重なっているのを見ると、今ではほとんどハードディスクの容量を圧迫するデジタルゴミと化していた。数分考え込んだあと、リモコンを手に取り、番組名にチェックを入れたフォルダ丸ごとを「削除」ボタンで空にすると、瞬く間に 300GB 以上の空きができた…… 待てよ、この操作、どこかでデジャヴを感じるぞ。そうだ、1 年以上前にもまったく同じことをしていたのだ。
自分のような重度のテレビ中毒者でさえ、今ではテレビメディアを「オワコン」の奈落に押しやる片棒を担ぐ一人になってしまった。七年前のあの出来事を思い返すと、この瞬間、もしかすると最初からこの業界自体が、視聴者を外へ追いやっていたではないか、と疑わずにはいられない。

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